20121220

Jane Eyre (2011)




やっと観た。
英文学で「governess」(雇われの女性家庭教師、大体住み込み)といえば、この作品。

2011年公開の「ジェーン・エア」だよ。
買って良かった!
シャルロット・ゲンズブール版(1996)よりは上手くまとまってるんじゃないかと思われ!
以下、思ったこと。原作に対する、この映画のinterpretationの仕方を考えてみました。








原作は、ジェーン・エアという主人公の半自伝的小説。孤児ゆえに、叔母のリードさんの元で育てらるんだけど、この叔母さんの家族が本当に酷い!ジェーンを人間として認識してくれないし、従兄弟たちに(特に長男のジョン)からも酷い仕打ちを受ける。けど、ジェーンは果敢にも彼らに反抗する。


そんな「悪い子」ジェーンは、リード家がすんでるゲーツヘッドを離れてローウッドという施設で教育を受けることになる。ここの施設も現実のどん底のような世界で、生徒いは酷くて、食事もろくに食べさせてもらえない。全員女子なのに、先生たちは普通に生徒を叩くし、管理がなってないから疫病で半数の生徒が死んでしまう、そんな学校でジェーンはヘレン・バーンズに出会い、唯一仲良くなる。けど、やがて彼女も持病で死んでしまう。



そんな凄まじい生活を生き抜き、ジェーンはようやくローウッドを出て、ソーンフィールドというお屋敷で家庭教師として雇われる。そこでそこの主人であるエドワード・ロチェスターと出会い、様々な(というか奇妙、それより恐怖を煽るような)事件を通してお互い恋に落ちるんだけど…









制作者たちも言ってるように、ゴシック要素が多い気がする。雰囲気をとってみても、全体的に色のトーンが抑えられていて、なんだか薄暗い。イギリスっぽい?といえばそうかも。

ボーナス映像の方でも解説してたけど、「光」がキー。特にそれが顕著なのはソーンフィールドでのシーンたち。最初にジェーンが訪れる時も夜で、ロウソク或いは暖炉の灯りだけしかない。ジュディ・デンチが演じるフェアファックスさんも、ソーンフィールドの暗さについて言及してるし。当時の生活を考えれば、電気がないのは当たり前なんだけど、それが余計にこの話に潜んでいるダークな部分を示唆している。製作者たち曰く、暗闇に対する「恐怖感」を演出しようとしてたらしく、それが物語のゴシック性を強調してるというわけなのかしら。

あと、夢。
ゴシック小説には、超自然現象とか夢、というか「悪夢」がよく出てきます(エミリー・ブロンテの「嵐が丘」もそう)。反対に、オースティンのようなリアリズム小説には全く出てこない。この映画では、ジェーンがリヴァーズ家で朦朧としている中、彼女自身の生い立ちが説明されている。つまり、幼少期からソーンフィールドを出るまでの部分は、彼女にとっての悪夢とも言える。

その根本にあるのは、リード叔母さんもそうだけど、なんと言ってもバーサ・メイソンの存在じゃないかしら。ロチェスターの戸籍上の妻である彼女がいるから、ジェーンはロチェスターと結婚することができなかったし。彼女はソーンフィールドの生きた亡霊で、物語のキーキャラクターだ。バーサの死によって物語はハッピーエンドを向かえるけど、妻が死んだことでジェーンはソーンフィールドでの「幽霊」的な存在感から本妻として認められる。ロチェスターの元にちゃんと人間の姿をしたジェーンが現れるし(最後のセリフも"Awaken then"って「夢から覚めなさい」だし)、幻聴(超自然的状況)でしかなかったロチェスターのもとに帰れることができた。これら全がてゴシック的要素として取り入れられ、最後には解決で終わるという構造になってる。



あと、ロチェスター氏についてなんだけども。
彼はソーンフィールドの当主だから、実際は労働者階級のジェーンと結婚することは許されないはず。ジェーンはただでさえ全くかわいくないから(という設定)、ロチェスターとは不釣り合いなんだよね。で、彼は登場からして'masculine'さが強調されている。あんなにも強暴な馬を乗りこなせるくらいの力が彼にはある。彼が所有しているソーンフィールド(「棘の野原」)も彼の力や性質を表してる。そんな強い男性という像は、ジェーンの前では次第に崩れて行く。それが決定的な場面は、真夜中の火事事件じゃないかしら。ことが収まった時のロチェスターは、とても弱々しい。
Jane... fire is a horrible death. You have saved my life. Don't walk past me as if we were strangers
ここで初めて、彼はジェーンの名前を呼ぶ。彼が彼女を信頼していることも見て取れる。他人を遠ざけているのはロチェスターの方なのに、「見知らぬ人のように振舞わないでよ」ていってる。また、「私を置いて行くのかい?」と二度も言葉にすることからも分かるように、彼は本当は寂しい人間なんだということが微かに分かる。彼も人間なんだなーって思うと可愛く見えるよね。ツンデレじゃーん、かわいい、ぐへへ。


話が脱線するけど、彼の好意に気づきながらも、ジェーンはそれに答えようとしない。

明け方のこのシーンは柔らかい光が幻想的な効果をもたらしてて、まだ二人が夢の中にいるかのように感じられる。ジェーンを求める(チャラげな)ロチェスターと、幼さを残したジェーンがなんとか彼を拒む様子。それは見ている人をドキドキさせる、印象的なシーンなんじゃないかなと思う。(ん?私がドキドキしただけか、そっか笑)


一番ドキドキしてしまったシーン、はい。

で話を戻して。ロチェスターは社会的には強さを誇示しなければならない立場にあるんだけど、それはイングラムとの関係からもみることができる。

この時代(ヴィクトリア朝)は、イギリスが大英帝国として世界に進出する時代 (これは他のシーンで、ジェーンがアデルに地球儀を使って説明してるよね)。当然、男性には男らしさや力強さが求められた。イングラムのこのセリフには、当時の社会の考え方よく現れている思う。女性は男らしさに魅力を感じるわけね… 「男の美しさは権力によるものよ」って、恐るべしイングラム。現代の肉食女子でもこんなの言わないよ。

彼女の前では取り繕ってるロチェスターでも、きっとそういった評価が更に彼を弱くさせているんじゃないかなと思った。彼もイングラムは"machine without feelings" (「感情のない機械だ」)と批判するしね。つまりBritannia(大英帝国)が"she"で示されるように、イングラムはある意味、機械の発展によって成立した大英帝国を象徴する人物なのかもしれない。



イングラムとは対照的に、ロチェスターにとってジェーンは"rare, earthly thing"(直訳すると「珍しいこの世のもの」)なわけだが、ここにはこの時代にも見られた(産業革命の反動である)ロマン主義的な考えが反映されてるのかも。(深読みしすぎ?)

つまり、ロチェスターからしてみれば、ジェーンはイングランドの自然のように素朴な、心地よさや温かさを象徴している。ジェーンとロチェスターが恋仲となった後、太陽の光と、この作品の中にしては珍しいピンクの花の木のカットがあったり、自然の中で戯れている二人の姿があることからも分かるようにね。




二面性があるロチェスターとは反対に、従来から存在する女性像に真っ向から反抗しようとするのが、ジェーン。

シン・ジン、予想外に二枚目系…


彼女がシン・ジン(彼女の従兄弟、St. Johnという綴りだけど、発音の仕方は「シン・ジン」らしい)の求婚を「あなたとの結婚は死ぬのと同然」と拒否する時も"That is violent, unfeminine, untrue"(おおざっぱに言えば、「そんな暴言は女性らしくない」)と言われるんだけど…冷静に考えて、酷くない?笑 原作でも「女性としての自立」っていうのは大きなテーマになってるわけだが、シン・ジンはそれをジェーンにとって困難にさせるやっかいな精神面の自立を促すキャラクターとして登場する。この映画だとインドへ行く彼についていくとジェーンは言うけど、それは結婚じゃなくて同行という条件で。インドへ行くなんて結構柔軟な発想を持っている彼なのに、結婚が大前提っていう彼の頭の固さは、ジェーンには通用しないのよね。

女性像の問題はロチェスターとの間にも存在する。ロチェスターの元から逃げたのも、もちろんジェーンが自身の自立を守るため。彼女がウェディングドレスを脱ごうとするシーンの、何重にも編まれてる糸や重ねに重ねてある布は、彼女が結婚制度という女性を家に閉じ込めて不幸にするといったような、従来の結婚制度或いは女性像に囚われている状況を示してる。彼女の動揺は画面の揺れからも伝わってくる。ジェーンは重婚をしようとしたロチェスターに怒りを感じつつも、結婚という女性の自由を奪う社会の制度によってロチェスターを得ようと思ってた自分に絶望しているんじゃないかな。




欲を言えば、ローウッド時代をもう少し描いて欲しかったかも!原作に出てくるテンプル先生が出てこないんだよね。彼女がいないと、何でジェーンが不良というか、悪い意味でひねくれた女の子にならなかったのかという説明がつかない気がするんだ…


あとキスシーンがとてもぎこちないww
相当awkwardだよ!年齢差?何がいけないの?
というか、なんかイケナイもの見てる気分になるのはなぜ?笑


マイケル・ファスベンダーのアクセントが普通すぎて(よくない意味で)気になってしまったけど、彼の瞳は印象的。


このおめめ。

少年というか、弱い部分もしなやかで力強い部分も包含してる。というか、ロチェスターはこんなチャラいのでいいのか… かっこいいけどさ… かっこいいんだけどさあ… でもDangerous Methodの時とは雰囲気違って、自由に変幻できる役者って凄いなーと思った。声が特徴的だね。不思議な声してるから一発でわかる気がする。


ミアちゃんはー、見てる間に慣れた。ヅラ感が否めない笑。ロチェスターが暖炉の前で縋り付いてる時の、泣きながらの"God help me"がとても印象的。

あと、ナイトレイ版の「プライドと偏見」のダーシーの妹さん、リバーズの従兄弟の一人だったね。
かわらんのう。
この子。



以上。面白かったし、映像も綺麗!まるでMVを見ているよう。
Birdyの"Skinny Love"を思い出した。



それくらい画面の構造がとてもスタイリッシュだったと思います
時代劇としてもオススメだし(衣装やら部屋の装飾とか。実際に、アカデミー賞の衣装デザインノミネートされたらしいです)、原作ファンでも観れる映画になってると思いまーす!


★☆
Dir. by Cary Fukunaga (キャリー・フクナガ)
Music: Dario Marianelli
Cinematography: Adriano Goldman


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