20121220

The Hours (2002)




英文学史の授業で紹介されていた映画。
ヴァージニア・ウルフについての映画ってあまりないと思ってたので朗報でした。

日本語タイトルは「めぐりあう時間たち」(正直、私はこのタイトルに納得してませんっ)。

あ、英文学カテゴリーに入れたのはV.ウルフについての内容なので。
原作はアメリカ人のMichael Cunninghamが書いています。




お話としては、「ダロウェイ夫人」(V.ウルフの著書の中では最も有名)を中心に、3つの時代それぞれに生きる3人の女性に焦点を当てている。まず1920年代に「ダロウェイ夫人」を執筆中のヴァージニア・ウルフ、1950年代にその「ダロウェイ夫人」を読んでいるローラ・ブラウン。で、現代の「ミセス・ダロウェイ」というあだ名がついているクラリッサ・ヴォーン。クラリッサに関しては、描かれている彼女の一日が「ダロウェイ夫人」の内容そのままとなっている。

しょっぱなのシーンがウルフの入水自殺から始まってそれで終わるように、結構暗ーい感じ。


3人それぞれが、傍からみれば幸せな生活を送っている中で、孤独を抱えている様子が描かれている。その中でもかわいそうだなと思ったのは、ジュリアン・ムーアが演じるローラかも。彼女にとっては「家」っていうのが苦痛でしかなくて、けれど戦争から帰ってきた夫にとってはそこが幸せだという。彼女の生活は、すべて戦ってがんばってきた夫のために作られていて、彼女本人の幸せではないことが、家の中での沈黙加減からもわかる。妊娠してるから余計にブルーになるのかもしれないけど、とにかく自殺しようとするまで追い込まれてしまう彼女は本当に見ててつらい。



同じく、リチャードはクラリッサのために生きてきたと言ってることから、AIDSに侵されてもなお、生きなければならなかった彼もきっと辛かっただろう。結局彼は自殺してしまったけれど。




ウルフでよく言われるのが「意識の流れ」の技法。それと「気づき」の瞬間。そういうのが、例えばこの映画だと卵を割る音や、街の喧騒というノイズを私たちに意識させることで、キャラクターたちの心情を描き出していると思う(苛立ちとか)。また、リチャードが遠い昔、クラリッサと迎えた朝が綺麗だったっと言っているけど、それはなんでもない、"ordinary"(「平凡」)な朝だった。それでも確かに、その瞬間だけは記憶に焼き付くほど美しかった。この映画は、そんな瞬間や「気づき」を愛しながら生きてゆくことが大事だと言っている。



きっと、ローラだってそういう瞬間があったかもしれない。けれど、彼女はそんなことに気を囚われている暇はなかった。彼女は孤独につぶされる前に、選択肢を選ばなければならなかった。ウルフも同様に。その選択肢は生きるか、死ぬかであって、前者は生きること、後者は死ぬことを選んだ。

その選択をする間の時間が、つまりは"the hours"なんだと私は思う。死を想うこと、生を想うこと。人は常に生と死の選択肢を選ぶときには、それについて考える時間が必要だから。この映画は各時代のそんな1日を描いたもの。人間って変わらないってことよね。その一日の何時間かの間に、3人はそれぞれの決断を下した(といっても、現代の場合はクラリッサというよりはリチャードに焦点を当てるべきだけど)。

だから「めぐりあう時間たち」っていうタイトルに納得いかないんだよね。「1冊の小説『ダロウェイ夫人』を接点にして、[それぞれの]時間枠たち(the hours)が“めぐりあう”物語」(ここ参照)だと言ってるんだけど、う~ん、と。確かに、ローラとクラリッサは"めぐりあう"しー?そうはそうだけどさぁ…。聴こえ的にもいいしね。これで仮に「生と死までの時間」というタイトルとかでも見る人はいないだろうし、第一なんの映画だよってなるわ。

いつも思うけど、邦題って本当に大変だよね。え、なんでそうなる?とか本当に適当なタイトル(なんか有名な作品もじったり)ばかりでたま~に「は?」って思う。英語が普及してない日本だと、やっぱりそのままのタイトルじゃだめなのかね。変に訳さなければいいのに、とよく思うわけですな。もちろん、いい邦題もたくさんあるけどね!


あとは、「死」そのものの問題か。ヴァージニアは「誰かが死ぬってことは、周りの者が生きてることをよりありがたく思わなきゃいけないってこと」って言ってるけど、本当にその通り。深く見れば、哲学的な映画かもしれない。とてもとても孤独感が強い映画でした。


ちなみに、「ダロウェイ夫人」ではお花が頻繁に出てくるけど、最初のシークエンスで各時代に登場する花が赤・黄色・青(だっけ?)でなんかかわいい。あとニコール・キッドマンのお鼻はつけ鼻だと知ってから、ずっと彼女の鼻に釘付けになってしまいました。あはは。



★★★★
Dir. by Stephen Daldry (スティーブン・ダルドリー)
Screenplay by David Hare
Music by Philip Glass
Cinematography by Seamus McGarvey

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